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高松高等裁判所 平成9年(ネ)439号 判決 1998年7月27日

呼称

控訴人

氏名又は名称

有限会社山田木工所

住所又は居所

徳島県徳島市南沖洲五丁目八番八号

代理人弁護士

中田祐児

代理人弁護士

上地大三郎

代理人弁護士

島尾大次

呼称

被控訴人

氏名又は名称

株式会社金剛堂

住所又は居所

大阪府大阪市住吉区苅田九丁目六番二七号

代理人弁護士

小亀哲治

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決別紙チラシ(以下「別紙チラシ」という)及び同別紙一図及び同別紙二図記載の笠部用装飾体を有する仏壇を表示した宣伝用チラシ、カタログ及びポスターを作成、配布してはならない。

三  被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙三記載の謝罪広告を、表題部分を二倍ゴチック活字、控訴人及び被控訴人の各会社名並びに各代表取締役の表示部分を二倍明朝体活字、その他の部分を一倍明朝活字を用いて、聖教新聞(全国版)及び宗教工芸新聞に各一回掲載せよ。

四  被控訴人は控訴人に対し、金九〇〇〇万円及びこれに対する平成七年四月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

次のとおり付加・訂正するほか、原判決の事実及び理由中の「事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四頁一行目の「不正競争防止法に違反し」を「不正競争防止法所定の不正競争に該当し」と改め、七行目末尾に「(原審証人山田剛、原審における控訴人代表者)」を加える。

2  同五頁一行目の「半円形の仏壇の笠部用装飾体を考案し」を「仏壇の頂部に取り付ける原判決別紙一図及び同二図記載の笠部用装飾体の意匠を創作し」と、六行目の「以下、「八王」という)、」を「右意匠登録に係る笠部用装飾体を有する仏壇を総称して、以下「八王」という)、平成五年一二月に」と、八、九行目の「(種類は宝縁一八号、」を「の一種である宝縁一八号(」とそれぞれ改め、一〇行目の「二九万円とされている」の次に「が、仏具価格は六万三九〇〇円とされ、合計価格が『三五万三九〇〇円』と大きく表示されている」を、末行の「[甲」の次に「三、」をそれぞれ加える。

3  同六頁一行目の「乙一二、」の次に「四〇の1、」を、同行目の次に改行して、

「六 別紙チラシには、縦約五四センチメートル・横約七六センチメートル(B2判程度)の比較的大きな用紙に、「値下げ断行!!」「グゥーンとお得!!」と赤い文字の大きなキャッチフレーズの表示がされ、本件仏壇のほか、厨子型・伝統型・家具調の種類別に合計一九種類の仏壇がほぼ同じ大きさのカラー写真で掲載されており、それぞれ商品番号及び名称が『27号 黒檀厨子(収納式)』のように表示されているほか、それぞれにつき小さな文字で仏壇価格及び仏具価格が表示され、その下に比較的太きな人目を惹く赤い文字で合計価格が掲載されている。その価格帯(仏壇本体の価格)は、別枠で紹介されている四万円のもの及び七五万円のものを別とすれば、概ね一〇万円から三八万円までであり、二九万円の本件仏壇は、右三八万円の仏壇に次ぐ高価格帯の仏壇として掲載されている。」

をそれぞれ加え、一〇、一一行目の「平成五年五月一九日改正・同六年五月一日施行・以下、改正前のものを」を「平成五年法律第四七号。同法による改正前の不正競争防止法を以下、」と改める。

4  同七頁一行目の「が規定する」を「二条一項一〇号、一一号所定の」と改め、二行目の「広告」の前に「商品を販売するための」を、末行の「被告において、」の次に「控訴人による八王の販売を妨害する目的で」をそれぞれ加える。

5  同八頁一行目の「故意に」を「不当に」と、三行目の「信用毀損」を「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布」とそれぞれ改める。

6  同九頁三行目の「が規制する」を「二条一項一〇号にいう」と、六行目の「さらに少なく」を「わずか一二本しかないのであって」とそれぞれ改める。

7  同一〇頁七行目の「不正競争防止法が規制する信用毀損行為」を「被控訴人が別紙チラシを配布することは、不正競争防止法二条一項一一号所定の不正競争」と改める。

8  同一一頁末行の「一億八八一六万二八三八」を「九〇〇〇万」と改める。

9  同一二頁六行目の「販売すること」の次に「を余儀なくされたこと」と改める。

10  同一三頁二行目の「八王の」の次に「平成五年一二月から平成六年四月までの」を、八行目の「撤退」の次に「を余儀なくされたこと」をそれぞれ加える。

第三  当裁判所の判断

一  不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争の成否

控訴人は、被控訴人は本件仏壇を販売する意思がなく、若しくは本件仏壇の販売することのできる量が極めて限定されていたにもかかわらず、本件仏壇を掲載した別紙チラシを大量に配布して顧客を誘引しようとしたものであって、被控訴人の右行為はいわゆる「おとり広告」に当たり、不正競争防止法二条一項一〇号所定の役務の質、内容若しくは商品の数量を誤認させる表示をする不正競争である旨主張する。

1  しかしながら、控訴人の右主張のうち、被控訴人の行為が役務の質、内容を誤認させる点で不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争に当たるとの主張についてみると、本件は、仏壇という「商品」の販売に際し被控訴人が配布した別紙チラシの表示が同号所定の不正競争に当たるか否かが問題となっている事案であって、被控訴人は役務の提供を業としているものではないから、その提供する「役務」の質、内容について誤認させるような表示をしているという控訴人の主張はそもそもその前提を欠くものというべきである。

なお、仏壇という商品を仕入れ、かつ、販売することを内容とする被控訴人の営業活動自体を一種の役務とみて、被控訴人は本件仏壇を販売する意思がなく、若しくは本件仏壇を販売できる量が極めて限定されていたにもかかわらず、本件仏壇を掲載した別紙チラシを大量に配布して顧客を誘引した上他の商品を販売するといういわゆる「おとり広告」を行ったものであって、被控訴人の右行為が役務たる被控訴人の営業活動の質、内容を一般消費者に誤認させるものとして、同号にいう「役務の質、内容」を誤認させる表示をしたものであると解する余地があるとしても、同号のうち役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をして役務を提供する行為に該当する行為については、同法附則三条三号及び六条が、同法の施行日である平成六年五月一日前に開始した行為を継続する場合には同法四条(損害賠償)及び七条(信用回復の措置)の各規定は適用しない旨規定しているところ、前記第二の(争いのない事実等)五のとおり、被控訴人は、別紙チラシ一七万枚を同法施行前の平成六年三月八、九日ころから自己の店舗内に備え置くなどしてこれを配布したものであり、同年秋に同一内容のチラシを一〇万枚配布したのも、同法施行前にした右配布行為を継続したものということができるから、被控訴人が別紙チラシを配布したことをもって被控訴人に同法四条に基づく損害賠償義務及び同法七条に基づく信用回復の措置をとるべき義務を負わないことは明らかである。

2  また、控訴人の主張のうち、被控訴人の行為が商品の数量を誤認させる点で不正競争防止法二条一項一〇号所定の不正競争であるとの主張についてみると、同号にいう商品の数量とは、同号の立法趣旨及び規定の体裁からして、取引の対象とされる商品自体の本来有すべき数、容積又は重量を意味すると解すべきであって、商品の在庫数量を意味するものではないというべきであるから、被控訴人の行為が同号にいう商品の数量を誤認させるものということはできない。

以上のとおり、本件仏壇を販売する意思がなく、若しくは本件仏壇が販売することのできる量の極めて限定されている商品であったにもかかわらず、本件仏壇を掲載した別紙チラシを配布した被控訴人の行為が不正競争防止法二条一項一〇号所定の不正競争に該当するとの控訴人の主張は理由がない。

二  不正競争防止法二条一項一一号の不正競争の成否

控訴人は、被控訴人は控訴人による八王の販売を妨害する目的で、販売する意思のない商品若しくは販売することのできる量が極めて限定されている商品につき、不当に低価格を付けた本件仏壇を掲載した別紙チラシを配布したものであるから、被控訴人の右行為は、不正競争防止法二条一項一一号の不正競争に該当する旨主張する。

1  しかしながら、前記第二の(争いのない事実等)五、六のとおり、別紙チラシには、控訴人の製造した八王の一種である本件仏壇が仏壇価格二九万円と表示されて掲載されているが、あくまでも被控訴人の販売する商品の一つとして他の多種類の商品とともに掲載されているのみであって、本件仏壇が控訴人の製造に係る商品であり、かつ、品質が劣るものであるなど、ことさら控訴人の営業上の信用を害するような事実は一切記載されていないのみならず、控訴人が問題にしている仏壇価格は比較的目立たない小さな文字で書かれ、その下に比較的大きな人目を惹く赤い文字で合計価格三五万三九〇〇円と書かれ、本件仏壇の価格帯は、仏壇価格が三八万円の仏壇に次ぐ高価格帯の仏壇として掲載されているのである。これらの諸点を考慮すると、別紙チラシ自体には、何ら控訴人の営業上の信用を害するような虚偽の事実は記載されていないことが明らかである。

2  控訴人は、被控訴人の別紙チラシの配布行為が同号所定の不正競争に該当する根拠として、被控訴人が控訴人による八王の販売を妨害する目的で、販売する意思のない商品若しくは販売することのできる量が極めて限定されている商品につき、不当に低価格を付けた本件仏壇を掲載した別紙チラシを配布したことを挙げるが、仮にそのとおりであったとしても、被控訴人の行為が他の類型の不正競争に当たるか、又は民法七〇九条の不法行為を構成すると解する余地があることは別論として、それ自体が競争者たる控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為であることを根拠づけるものではない。

以上のとおり、被控訴人の行為が不正競争防止法二条一項一一号所定の不正競争に当たるとする控訴人の主張は理由がない。

三  民法七〇九条の不法行為の成否

1  控訴人は、仮に被控訴人の行為が不正競争防止法二条一項一〇号又は一一号の不正競争に該当しないとしても、民法七〇九条の不法行為を構成すると主張する。控訴人が民法七〇九条の不法行為を構成するものとして主張する被控訴人の行為は、前記各不正競争に当たる理由として主張するところと同様、被控訴人は、控訴人による八王の販売を妨害する目的で、販売する意思のない商品若しくは販売することのできる量が極めて限定されている商品につき、不当に低価格を付けた本件仏壇を掲載した別紙チラシを配布する違法な「おとり販売」を行い、よって控訴人が他の小売店において八王を適正な価格で販売することを困難ならしめ、ついには控訴人を仏壇製造業からの撤退に追い込んだ、というにあると解される。

2  証拠(甲一五、一七、一八、二五、三六、乙一ないし三、一〇の1~3、一一、一二、原審証人山田剛、同▲高▼橋義信、同綿原範夫、原審における控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被控訴人は、創価学会会員専門の仏壇販売業者であったところ、平成二年末ころから日蓮正宗と創価学会の対立が激化し、創価学会の池田大作名誉会長が法華総講頭を罷免されるなどという事態が生じ、これに加えて平成三年には日蓮正宗から創価学会に対し本尊を下付しないという措置がとられたことや、折からのバブル崩壊のあおりを受けて高額の仏壇が売れなくなったことも重なって、創価学会員に対する仏壇の売行きが鈍化したため、被控訴人の存在のアピールを図るなどの販売戦略の一環としてチラシを大量に配布するという方法をとることとした。

(二) 被控訴人は、控訴人とは直接の取引関係にはなかったところ、平成六年三月九日、株式会社タケダから、控訴人の製造販売する本件仏壇を単価二五万円で三台仕入れた(なお、本件仏壇の仕入れと同時に同じく控訴人の製造した「優雅」という商品も単価二五万円で三台仕入れた。)。被控訴人は、右仕入れに際し株式会社タケダから小売価格について一定額を下回る価格設定をしてはならない旨の拘束を受けなかった。

そこで、被控訴人は、本件仏壇及び「優雅」という仏壇について仕入価格に四万円の利潤を上乗せした二九万円という価格設定をし、そのころ、別紙チラシに他の商品と併せて掲載して一七万枚印刷し、被控訴人の販売店に備え置くなどして配布し、同年秋ころにも右チラシを一〇万枚追い刷りして同様に配布した。

なお、被控訴人のオリジナル商品(被控訴人がデザインを考案し、金具、彫刻等の部品を製造業者に供給して製造させている商品)の粗利益率は、黒檀等の高級仏壇については概ね四〇ないし五〇パーセント、それ以外については概ね三〇ないし四〇パーセントであり、本件仏壇の利益率はこれよりも相当低い。しかし、オリジナル商品の場合、被控訴人は製造業者に部品を原価で卸しており、また、中間卸売業者を介在させないことなどから、商品を安価で仕入れることができ、その分同じ小売価格であっても利益率は高めになるのに対し、本件仏壇のように中間卸売業者から仕入れる仏壇については利益率を比較的低めに設定せざるを得ない。

被控訴人の別のチラシ(甲三六)に掲載されている創春シャム柿は、平成四年一〇月六日に二九万円で仕入れたものであるが、三三万円の価格でチラシに掲載している。

(三) 被控訴人が株式会社タケダから仕入れた三台の本件仏壇は、その後完売するに至り、更に、同社に対し本件仏壇を追加注文したが、控訴人から本件仏壇の入荷がないから、右注文には応じられないとの回答を得たので、その後は本件仏壇を販売していない。

(四) ところで、控訴人は、平成五年一二月に八王の製造販売を開始し、同月二〇日から平成六年三月二〇日までの間に六二本を売り上げた。被控訴人が販売した本件仏壇(控訴人の製造する名称としては八王宝縁一八号)の控訴人の小売業者に対する卸売価格は二一万円であった。

なお、控訴人の製造販売する八王の卸売価格と小売店での店頭価格(カタログ〔甲一八〕に記載されているメーカー希望価格から更に値引きした赤い字で書かれた価格)は、それぞれ次のとおりであり、店頭価格は、卸売価格のおおむね三倍ないし三・五倍に価格設定されている。もっとも、右店頭価格は小売店の意向も入った参考価格例であり、実際に小売店がいかなる価格で販売するかは小売店の判断にゆだねられており、実際にはこれよりもかなり値引きして販売されており、メーカーたる控訴人がその価格を拘束するというようなことはなかった。

仏壇名       卸売価格      店頭価格

八王宝友二〇号   一七万円      五一万円

八王都一八号    二二万五〇〇〇円  六六万円

八王宝輪一八号   二四万円      七二万円

八王宝縁二〇号   二五万円      八七万五〇〇〇円

八王宝翔一八号   一九万五〇〇〇円  五八万五〇〇〇円

八王光輪一八号   二三万五〇〇〇円  六九万円

(五) ところが、被控訴人が本件仏壇をこれよりも大幅に低価格である二九万円で販売する旨を記載した別紙チラシを配布したため、控訴人の取引先である小売店側から控訴人に対し、被控訴人と裏取引をして被控訴人に対して自分たちより安く商品を卸販売しているのではないか、被控訴人が本件仏壇をこのような低価格で販売する旨の広告を出した以上、右価格を超える価格での販売が事実上不可能になったとして、八王の購入を差し控える小売店が増え、その結果、各小売店の圧力に屈して販売促進のため八王ばかりではなく、控訴人の製造販売する他の種類の仏壇についても一律に二〇パーセントの値引きを余儀なくされた。また、その後も更に売上げが落ちたため、平成七年九月に従業員をほとんど解雇して、事実上仏壇の製造業から撤退し、現在は、在庫の仏壇を細々と販売しつつ家具の販売業に転身するに至っている。

(六) 仏壇は、商品としての性質上、頻繁に買い換えるようなものではなく、したがって、大量に販売できるようなものではないから、個々の小売店がどの程度の在庫数量を確保しておくかは、チラシの配布等による消費者の反応を見極めた上でそれに応じ逐次決定されざるを得ない側面もある。

3  右2の各認定事実に前記第二の「争いない事実等」欄記載の事実を併せて検討すると、被控訴人は、本件仏壇を単価二五万円で三台仕入れたものであり、そのころ本件仏壇の本体価格に二九万円という価格設定をした上、本件仏壇のほか被控訴人のオリジナル商品を含む他の多数の仏壇を掲載した別紙チラシを合計二七万枚配布したものであるが、仏壇は、商品としての性質上、頻繁に買い換えるようなものではなく、したがって、大量に販売できるようなものではないから、宣伝広告のために配布されるチラシの配布枚数に見合うだけの仏壇を常に確保していなければならないというのは現実的ではないことが明らかであり、チラシを配布した後の消費者の動向を見極めた上でそれに応じ逐次決定されざるを得ない側面もあるのであるから、本件において被控訴人が別紙チラシの当初配布枚数一七万枚及びその後の配布枚数一〇万枚に見合うだけの本件仏壇を確保していなかったとの一事をもって、被控訴人が、販売する意思のない商品もしくは販売することのできる量が極めて限定されている商品をことさら別紙チラシに掲載し、いわゆる「おとり販売」をしたと認めることはできない。また、被控訴人は、本件仏壇を仕入れた株式会社タケダから本件仏壇を一定価格を下回る価格で販売してはならない旨の拘束を受けてなかった上、控訴人自身もかかる価格拘束をしていないところ、被控訴人が本件仏壇に設定した二九万円という小売価格も、その仕入価格(二五万円)や、他の商品に対する価格設定等前記2(二)(四)認定の事情に照らして異常に低価格であるということは到底いえないものであり、かつ、本件全証拠をもってしても、右のような価格を付けた本件仏壇を掲載した別紙チラシを配布したことが、控訴人による八王の販売を妨害する目的でされたものと認めることもできない。

もっとも、前記2の(四)、(五)の各事実によれば、控訴人の製造販売する八王の一般の小売店での店頭価格は、卸売価格のおおむね三倍ないし三・五倍に価格設定されており、被控訴人が本件仏壇を二九万円という右設定価格よりも大幅な低価格で販売する旨を記載した別紙チラシを配布したため、控訴人の取引先である右の小売店側から控訴人に対し、被控訴人と裏取引をして被控訴人に対して自分たちより安く商品を卸販売しているのではないかなどとして、八王の購入を差し控える小売店が増え、その結果、各小売店の圧力に屈して販売促進のため八王ばかりではなく、控訴人の製造販売する他の種類の仏壇についても一律に二〇パーセントの値引きを余儀なくされるに至り、遂には事実上仏壇の製造業からの撤退を余儀なくされるなどの事態を招いたものであるが、一般の小売店では卸売価格の概ね三倍ないし三・五倍に小売価格が設定されているとはいっても、右店頭価格はあくまで参考価格例であり、実際に小売店がいかなる価格で販売するかは小売店の判断にゆだねられていて、実際にはこれよりもかなり値引きして販売されており、メーカーたる控訴人がその価格を拘束するというようなことはなかったというのであり、二九万円という本件仏壇の価格自体が異常に低価格であるといえないことは前記説示のとおりであるから、被控訴人による右価格設定は、本来自由であるべき正当な価格競争の結果というほかなく、本件仏壇に二九万円という小売価格を付けた別紙チラシを配布すること自体が被控訴人に対する不法行為を構成するような違法な宣伝行為であると評価することは到底できない。

4  以上のとおり、被控訴人の行為が民法七〇九条の不法行為を構成するとする控訴人の主張も理由がない。

第四  結論

よって、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 田中俊次 裁判官 村上亮二)

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